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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

≪ネパール≫カトマンズ

               ≪九月七日≫    -燦-



機種はボーイング727。


 RA402便。


 飛行機は午後3時30分バンコックを飛立った。


 空席が目立つ。


 日本人も10人ほど目にする。



しかし、明らかに違う。
 明らかに違う人種が多く乗ってい

る。


 これまでは東洋人という事もあって違和感は何もなかった。


 しかし、ここは異空間。


 インド系の黒い身体に白い目が無気味に光る。


 ここが東洋と中近東・インドとの境目のようだ。



二時間半?・・三時間くらい飛んだだろうか。


 窓の向こうには高い山々が見えてきた。


 そんな山の中なのに、飛行機は高度をグングンと下げて行く。


 えッ・・・・何処に飛行場があるの?
 滑走路さえ見えない。



 飛行機はお構いなく、機種を下げ車輪を下ろし始めた。


 そんな山の中に小さな国の小さな首都カトマンズと小さな飛行場があ

る。


 まるで一昔前のローカル空港だ。


 窓から見える景色は、土色をしたみすぼらしい小さな家々が、丘陵地

にポツンポツンと建ち並んでいる。


 街全体が異様な雰囲気をかもし出している。



無事着陸してタラップを降りると、二階建てほどの空港ビルが見え

るのだが、屋上を見てまたビックリ。


 機内で見た、あの異様な雰囲気をもった人たちが、珍しい物でも見る

ように集まってきているのだ。


 空港ビル内に入り、パスポート・チェックと荷物のチェックを簡単に

済ませることが出来た。


 すぐマネー・チェンジをする。



      ≪1USドル=12.5Rs、1Rs=22.4円≫



USドルで20$を250Rsに交換。


 日本円で5600円を手にした。


 ビル内でカトマンズの地図を手にして、外へ出ると客引きがいる。


 今にも壊れそうなボロ車を停めて、ホテルまで案内するからと俺の手

を引っ張るではないか。



手にはエキスプレス・ホテルの名刺を持っている。


 俺はてっきりホテル差し回しの車だと勘違いし、ボロ車の一台に乗り

込んだ。


 車は上下・左右に揺れながら、ゆっくりと丘陵地を走った。


 簡易舗装はしているようだが、至る所に穴があいているのか、そこに

車を落としこむと、ゴツンという音をたてて俺の尾てい骨が固いシートに

ぶち当たり、俺の頭は車の天井にぶち当たらんばかりである。


 それでも運ちゃんは、涼しい顔をして車を走らせている。



十五分も走ると、車は街らしい街に入って止まった。


    俺   「いくら?」


 日本語で・・・・・。


 運ちゃんのなれたもんで、紙を取り出すと紙に25Rsと書く。


    俺   「冗談じゃあない!高い!」


    運ちゃん「ノー!高くない!」


    俺   「相場は10~12Rsだろ。」


 街中は4~6Rs。


 これでは白タクだ。



怒りながらも気長に話をすすめる。


 俺はそんなに急いでないのだから。


 運ちゃん、次の客を探さなくてはならないから焦りだした。


    運ちゃん「20Rsだ。」


    俺   「15Rsだ。」


    運ちゃん「・・・・・・・・。」


 運ちゃんの目を見ていると、焦っているのが見える。



  運ちゃん「分かった、18Rsで手を打とうじゃないか。」


    俺   「まあ・・・良いだろう。俺も運賃を決めないで乗っ

たのは悪かったから。でもお前がホテルの名刺を持っ

てるからいけないんだ。」


    運ちゃん「良いから早く出せ!」


    俺   「はい!18Rs(≒403円)」


 早速やられてしまった。



  ”Express House”は日本人の女性が、ネパール人と結婚して

こちらに住んでいて、ホテルも日本式らしい。


 ホテルはNAXAL通り近くにあるのだが、地図には載っていない。


 奥さんは暫く日本に里帰りしているうえ、マスターも不在であった。


 使用人が二、三人いて、そのうちの一人に”プモリの間”に通され

た。


 二階の奥の部屋で、部屋の中にはベッドが三つ置いてあるだけだった

が、割りに小奇麗にしてあった。



    俺 「これが30Rs(≒670円)の部屋か・・・。」



カトマンズにしては、中級のホテルだ。


 荷物を部屋に置いて一階の食堂に下りると、二人の日本人初老が今ま

さに食事をしながら話し込んでいる所だった。


     俺 「こんにちわ!」


    初老「やあ!こんにちわ!今着いたのかい?」


    俺 「ええ!勝手が分からなくて、タクシー任せにしたら

ここへ案内されてしまって・・・・・。」


    初老「大分ぼられただろ!」


     俺 「空港から18Rs取られました。」



    初老「18Rsならまだ良いほうだよ!僕なんか30Rsも払った

からね・・・本来なら10Rsぐらいなもんだけどね。まあ日

本に比べれば、ぼられたといっても小さな金額だけど

ね。」


    俺 「まあ・・・・そうですが、僕ら貧乏旅行している者にと

っては気をつけているんで・・・・悔しいですよ。」


    初老「何処から来たんだね?」


    俺 「タイから飛行機で・・・・・。」


    初老「・・・・・・。」


    俺 「ところで、ここは門限あるんですか?」


    初老「いや!そんなもんはないけど、あまり夜遅く出歩く

と道に迷うよ。何しろ外灯が少ないから・・・・・夜

は本当に真っ暗だからね。」



    俺 「マスターはいないんですか?」


    初老「今出かけているよ。すぐ帰って来るよ。奥さんは今

里帰り中。」


    俺 「おじさん達は、ここもう長いんですか?」


    初老「二週間位かな。私にも君くらいの息子がいるんだけ

ど、危ないから行くなって言われてね。反対を押し切

って、あっちこっち廻っているけど、これが夢だった

からね・・・・・・老後の楽しみだよ君。」


    俺 「・・・・・・・。」


    初老「私らも君みたいに、若い時に来たかったね。もうこ

の歳では無理がきかないからね。」


    俺 「でも羨ましいですよ。俺も働けなくなったら、おじ

さん達みたいに世界中を歩いて廻れたら最高だろう

な。」



                   *



  のんびりおじさん達と話をしていたら、マスターが帰って来

た。


 日本語がなかなか達者だ。


    俺「この近くで食事できる所を教えてくれませんか。」


 地図を覗き込みながら、丁寧に教えてくれた。


 貴重品を気軽に預けてしまう。



もう外は真っ暗になっていた。


 言われたとおり、外灯はほとんど点いておらず、月明かり、人家の灯

りが頼り。


 外は涼しく、現地の人たちも夕涼みをしながら、散歩をしているよう

で人通りが結構続いている。



なにやら一年に一度の生き神様のお祭りが今日行われたとの事。


 その生き神様は、国中の3~4歳くらいの処女が選ばれて、17~18歳く

らいまで勤めるという。


 生き神様は普段、ほとんど人の目に晒されることなく閉じこもってい

るが、年に一度町の中をパレードして人の前に姿を現すのだという。


 その日が、今日だったというではないか。



勤めを終えると普通の子に戻るらしいのだが、なんとも奇妙な風習

ではないか。



                *



食事をしようと外出してみるが、暗くてとうとう道が分からず、パ

ンなどを買って(1.5Rs)戻ることにした。


 車で来る時もそうだったが、牛が公道をノッシノッシと何頭も歩いて

いるのに出くわした。


 車が来ても避けようとしない。


 避けるのは車だ。


 もちろんクラクションなどを鳴らすなど無駄な事である。


 道の真ん中に座り込んでいる牛もいる。



面白いことに、この国には牛についての法律がちゃんと用意されて

いるというのだ。


   ”一つ、牛と性交してはならない。”


 これには驚かされる。


 この国の牛は聖なるものゆえ、昔の人たちは聖なるものと性交を励ん

だ者が多かったという事だろうか?


 もちろん、牛を傷つけてはいけないという条文もあるから、車も人も

牛には逆らえないという訳だ。



ホテルに戻り、コーラ(3Rs)とパンで夕食とした。


 コーラはタイよりずっと高く、68円くらいになる。


 食事の後、食堂でチェンマイの話などで花を咲かせるが、貴重品を預

けているマスターがまた外出していて、チョッピリ不安な夜を迎えること

となる。


    俺 ”貴重品を預けるなんて、ちょっとドジだったか

な・・・・・。”


 この国に来て初めての夜、国民性をまったく知らないから不安は募る

ばかり。



時計を一時間ばかり戻す。


 時差があるからだ。


 午後11時、マスターが戻ってきた。


 貴重品を戻してもらって一安心。


 0:00を廻った。


 日本の秋のような夜である。


 何の虫だろうか、鳴き声が聞こえてくる。




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